トリガーポイント療法
- 2018年10月05日
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トリガーポイントとは何か
痛みの原因を究明するうえで、「トリガーポイント」というキーワードは非常に重要なものです。トリガーポイントとは何を指し、どのように成り立っているのでしょうか。また「ツボ」との違いはどこにあるのでしょうか。
トリガーポイントとは何か?
トリガーポイントは、最新の定義では「過敏化した侵害受容器」といわれています。正常な組織を損傷するか、損傷する恐れのある刺激(=侵害刺激)に反応する受容器が、過敏になった状態のことです。トリガーポイントは、関連痛や知覚過敏(しびれ)・違和感といった症状のほかに、感覚鈍麻・発汗・めまいなどの自律神経症状を引き起こすこともあります。
このトリガーポイントによる痛みやその他の症状を引き起こす症候群を、筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome, MPS)と呼びます。日本ではまだ筋膜性疼痛症候群という病気自体はあまり知られておらず、「筋痛症」とも呼ばれることがあります。トリガーポイントの好発(よく発生する)部位は、筋肉が骨に付着する部分、筋肉と筋肉が連結する部分、筋腱移行部、また力学的にストレスのかかりやすい場所などです。そして、その多くは筋膜に存在します。最近では、特に重積した(厚くなっている)筋膜にあることがわかってきました。またトリガーポイントは筋膜以外に、腱・靭帯・脂肪などの結合組織=Fascia(ファシア)にも存在します。
トリガーポイントの歴史的背景
約5300年前の人類最古の冷凍ミイラとして知られている「アイスマン」の背部や下肢には、刺青の跡があります。その位置は現代でいう「ツボ(経穴)」に一致しており、経穴治療をした痕であると推測されています。その後、古代中国でも鍼を用いて皮膚・筋肉を刺激する治療が3000年以上前に開始されました。
西洋でも、筋肉から生じる関連痛は、1938年に John Kellgren (イギリス)によって報告されており、1988年にはアメリカ合衆国元大統領ジョン・F・ケネディの主治医、Janet G.Travell と共同研究者の医師であるDavid G.Simons が、筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome; MPS)の概念を書籍(Travell JG, Simons DG ; 1983)で次のように提唱しました。
Myofascial Pain Syndrome:トリガーポイント(Trigger Point)によって引き起こされる知覚症状、運動症状および自律神経症状(を呈する症候群)。
しかし我が国の医学教育では、痛みの発生源として筋膜が想定されていません。
トリガーポイントが生じる理由、なぜできるのか?
トリガーポイントが形成される要因は、主に「不動」と「使いすぎ」と考えられています。長時間同じ姿勢を維持したまま動かさないこと、あるいは同じ筋肉を酷使すること(オーバーロード)によって筋肉に微小な損傷や炎症が起こり、筋膜に癒着が起きます。そこにトリガーポイントが生じるのではないかと考えられます。
その他にも様々な原因があるともいわれていますが、正確にはわかっていません。ただ、加齢によって体全体の水分が減ることで筋膜は癒着しやすくなります。経験的には、40歳からトリガーポイントができやすくなると考えています。栄養状態や糖質の過剰摂取も筋膜の癒着に関連がある可能性が報告されています。
トリガーポイントとツボ、違いは?
トリガーポイントとツボ(経穴)は、約8割が一致していると言われています。トリガーポイントができやすいところを、先人が「ツボ」=経穴として治療したものでしょう。トリガーポイントを放置していると「関連痛」を引き起こすことも
トリガーポイントは関連痛と呼ばれる痛みをひきおこすことがあります。どうしてこの関連痛が発生するのか、いくつか仮説はありますが詳しいメカニズムはまだ正確には解明されていません。
関連痛と痛みの原因であるトリガーポイントが一緒であれば、マッサージなどで治療することが可能です。しかしこの関連痛は、トリガーポイントとなる場所と同じ場所に出るとは限りません。実際のトリガーポイントと痛みを感じる部分が離れていると考えられえる場合には、関連痛パターンを参考にしてトリガーポイントを判別します。
トリガーポイントの意義や注意点とは?
トリガーポイントは放置すると症状の連鎖を引き起こすことがあります。筋膜の緊張状態が長引いて新しいトリガーポイントが生まれると、症状が複雑化する原因となります。症状の悪化を防ぐためにも、トリガーポイントは早い段階で治療する必要があります。
トリガーポイントは、放置をすれば新しいトリガーポイントを発生させる原因にもなるため、トリガーポイントは早期の解消が必要とされています。「不動(動かさなすぎ)」と「使いすぎ」がトリガーポイントの原因と考えられています。
治療にはトリガーポイント療法を行う以外にも、患者さんに対して「認知行動療法」を行う必要があると考えています。トリガーポイントは再発することもあります。患者さんにも痛みの原因が筋膜にあることを知ってもらい、日常の行動に変化を与えるようにすることができれば、患者さんが自分自身で痛みの状態をチェック・改善することができるようになるのではないのでしょうか。
そして、痛みの再発を防ぐためにも日常生活のなかに取り入れてもらうよう指導します。